|思想の一杯売《イズム オン ドラフト》――マルクス主義者――林田三郎
くさった歯齦《はぐき》のにおいがした。しかし、しばらくして私はそのにおいが支那の隠画《ネガチブ》に塗られた香料であることがわかるのである。部屋の空気が女の温度を感じさせた。室内の浮気な釦穴《ばたんあな》が、多数の男性によってつくられた鋳型《いがた》のように、慇懃《いんぎん》に籐椅子にもたれていた。
茶卓のクロース皮膚の汚点《しみ》をつけて、無上の快楽については妥協政治で解決する弾力のある男女がおか惚《ぼれ》同士のように話しつづけた。
豹《ひょう》の皮のはられた藍色の壁に向って、スモオキングを着た男たちが、自分の影にむかって挨拶をしていた。だが、諸君。よく見ているとこの男はいたずらに自分の影にむかって挨拶をしているのではなかった。人造人間の弾機《ばね》によって、そのたびに粋なナイト・ドレスをつけた夜の女が、写真に絵姿となってあらわれるのだ。
耳底に女の好物でものこるように、交響楽によって嗜色人の踊がはじまると、軍隊的な組織も粋な衣服にかくれて、部屋にいる人間の甘い唾液のなかを、安南の××がとおりぬけるのだ。
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