色に塗った魚類の食楽地獄だ。立並んだ軽便ホテルの裏街から、ホテルの硝子《ガラス》戸ごしに見える、アカダマの楼上のムーラン・ルージュが風をはらんでいる。
反対に宗右衛門町では、弦歌のなかで、河合屋芸妓の踏む床の足音がチャルストンの音律となり、はり半のすっぽんの霊に幻怪な世界を展開している。
私は西道頓堀の縁切路地の附近にある、古典書にまじって、横文字のマルクス経済学書もあろうと思われる、古本大学の淫書の書架の前に立っていた。
やがて、淫書の扉がひらくと、濛々《もうもう》とした紫煙のなかの客間《サルーン》から、現実の微細《デリケート》な享楽地帯が眼前にパノラマのようにあらわれた。この部屋の電気炉を囲んで談笑する紳士淑女諸君のうちから、著名な数人を読者に紹介すると、
綽名 履歴 名前
|恋の一杯売《ラブ オン ドラフト》――外国帰りの女政客――西紅葉
|性の一杯売《セキジュアリティオンドラフト》――外国帰りの女実業家――太田ミサ子
こけっとり おん どらふと――×映画社人気女優――生江幸子
|酒の一杯売《ビヤ オン ドラフト》――酒の密輸で成金になった商人――福井貂田
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