経営している、北浜にある貿易商会を出て、心斎橋から戎橋筋《えびすばしすじ》を道頓堀に向ってあるいていた。戎橋河畔の新京阪電車の広告塔のヘッド・ライトが、東道頓堀の雑鬧《ざっとう》が奏でる都会の嗄《かす》れ声に交錯して花合戦の幕が切っておとされた。
鑑札のない女たちも、新貨幣のおかげで夜の脇腹《わきっぱら》から彼女の蠱《まどわ》しい横顔を藍色の夜にあらわした。河水に向って明滅する大電気時計が赤色に染められて、水上警察の快速巡航船が、女の小指のような尾を引いて光の纒綴《てんてつ》の下を通り過ぎるとき、美人茶屋のグランド・コンサートが聞えてきた。
お茶屋のボンボリの仄《ほの》白い光の中から、芝居小屋にかかげられた幟《のぼり》の列を俯瞰《ふかん》する。そこから中座の筋むかい、雁治郎飴の銀杏返《いちょうがえ》しに結った娘さんから、一|鑵《かん》、ゆいわたを締めつけるように買ってきた包のなかから、古典の都市がちらちら介在する。
芝居裏の二枚看板、ちゃちなぽん引にうっかりつれこまれようとして、あわてて羽織|芸妓《げいぎ》の裾のもとをかいくぐって、食傷路地に出てくると、鶴源の板前が瑪瑙《めのう》
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