の娘とつきあってはならん、君は帰ってよろしい。」
 私は立上ると、輪廓のない調書のなかで、
「――あの娘さえ承知なら、絶対につきあいません。」と言葉をかえした。
 すると刑事は一枚の調査を私に手渡ししながら、
「――おい、しっかりしろ、あの娘はとんでもない阿魔《アマ》だぞ。その調書をよく読んでみるんだ。」
 警察の門を出て、私は卑猥《ひわい》にわらった刑事の顔を思い出しながら、渡されたチタ子が女としての売行表《リスト》とも思われる一枚の紙片を読んだ――佐田チタ子、女事務員。十七歳。女学校は中途退学。十五歳のとき某氏に自ら身を委《まか》したことを告白す。なお、某氏との関係はいまもつづいていることを告白す。その間、某私立大学生、某会社員、某教師等々と関係したことを告白せり――。

     2

 美貌な街であった。
 頸《くび》に捲《ま》きつくようにタクシーが市街を埋めて、私の側を通り過ぎた。高楼の鎧戸《よろいど》がとざされると、サキソフォンが夜の花のようにひらいて、歩きながら白粉を鼻につける夜の女が、細路地の暗《やみ》の中から、美しい脚をアスファルトの大通りにえがきだした。
 私は父の
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