》の鏡の面からつやぶきんをとるために、私は、藍色のカーテンで市街に向ってひらいた窓を閉ざすと、
「――それよりか、君のコオセット・ボタンがいくつあるか計算さしてもらいたいもんだね。」
「――あなたは図《ず》う/\しいのね。」
コミックの女のように肩をゆすって彼女は立ち上ると、部屋の把手《ハンドル》をあらあらしく廻した。
「――少し待ってくれ。スカートの短い女のまえで自殺する男にたいするご意見は?」
陽気に、口笛を吹いて女タイピストが踵《きびす》をかえした。
「――妾だったら、自殺するかわりに結婚するわよ。」
「――政府じゃないが緊縮してまでもか。」
「――あら、快楽のためにはフォードだってかまわない、山間を疾駆《しっく》するじゃありませんか。」
5
ところが、
午後になると――資産家。重役。月給取。靴磨き。タイピスト。薄給の教員。それ等の人間が急行列車桜、高速力巡航船、ホテル、トーキー常設館、オフィス、レストラン、冬期競馬場、少女歌劇場、それらの場所にいたあらゆる階級人が、驚愕《きょうがく》するような事件が勃起《ぼっき》した。
それはアメリカ資本主義に崩壊の徴《
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