市債の抬頭《たいとう》等の変化を見せたが、国内における購買力の減少は、街から街に黄濁の切断面をつくった。
この界隈の連合委員会の事業振興の決議案にもかかわらず、閑散とした取引市場をとりまいて、日一日と失業者と、彼らの飢えが生産余剰と反比例して街の広場に堆積《たいせき》して行った。
女タイピストが薔薇の花のついたガーターを、私の眼前で、わざと見えるような位置に脚をくんで、五色のおらんだ煙草をくわえた真紅な唇をゆがめると、細い橋を、熟練した工兵のように室内に吐き出した。
この社長室に父が出現するにはまだ一時間の猶予があったので、韻律を踏むように、私は彼女に近づくと、
「――君は不景気に処する道を知っていますか? それとも、君は他の女と異った意見をもっていますか。」
「――商業地の真ん中で、水入らずにそんな謎のような話をするものじゃありませんわ。あなたのような方は、この銀安を遁《のが》さず上海《シャンハイ》にでも行って金貨のありがたさを味わってくるんだわ。今朝の新聞では日本向カワセ相場は九六|両《テール》四分の三、千の寝床を得るのはお安いとこが経済ってものだわ。」
摩天楼《まてんろう
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