官省のN課長とやってきました。洋モスの着物に、紅帯を締めて、さげ髪に紅色のリボンを結んでいるのを見て、最初は一日恋愛の女学生かと思ったのです。チタ子は同伴のN課長が酒場に註文した甘美な混合酒を飲みながら、彼女は課長に、ヤルー衣裳店に註文した衣裳代を支払ってくれるように懇願しました。するとしばらくN課長は、ご自慢だとみえる黒髭《くろひげ》をひねっていましたが、漸《ようや》く幾枚かの紙幣を男法界《おとこほっかい》が女に烙印《らくいん》でも捺《お》すように与えて、チタ子をある処へ誘ったようでしたが、彼女は商人的な寝床が気に入らないらしく、これを拒絶すると、翌日の夜を仮約束していました。するとN課長は不満そうに立上って、彼女を置いて帰って行きました。チタ子はひどく憂鬱そうな顔をして狭苦しい椅子に埋《うずも》れていましたが、私が、自分の席へ誘うと、黙々として私の卓子《テーブル》にやってきて、
――失礼ですが、妾《わたし》を天下茶屋の家まで送ってください。
と、彼女が言いました。私はすこし酔っていましたが、チタ子に請われるままに、タクシーで家まで彼女を送りました。そして別れるとき私はチタ子に接
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