大阪万華鏡
吉行エイスケ
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)拘引《こういん》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)一|鑵《かん》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#ローマ数字2、1−13−22]
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1
北浜の父の事務所から、私は突然N署に拘引《こういん》された。
私がN署の刑事部屋に這入ると、そこには頭髪を切った無表情な少女のかたわらに、悄然《しょうぜん》と老衰した彼女の父が坐っていた。その周囲を刑事たちが取まいて、中年過ぎた警部によって私たちは取調べられた。
戯《ざ》れ絵のように、儀礼的な刑事部屋で、あぐらをかいた白毛のまじった老警部が私に言った。
「――チタ子の父から、君を誘拐罪として告訴状を提出しているのだが、君とチタ子とはどんな関係なんだ。」
私はその訊問に対して率直に答えた。
「――チタ子とは数日前、私が夙川《しゅくがわ》の舞踊場の踊りの帰路を立寄ったR酒場で会ったのです。彼女は自分の勤めている
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