しるし》があらわれたことであった。何もののために――プロレタリアの巨弾によってであろうか? ところが、アメリカにおけるプロレタリア自身、パニックの最中において米国産業組織の同伴者であった。すると、犯人の武装を解除して見よう。
 犯人は英国の大銀行団と、その背後のフイナンシャーであった。
 後日になって、倫敦《ロンドン》のサンデー・ビクトリアル紙は左の如く当日の模様について述べた。
(ウォール街は、過去において吸いあげポンプと化していた。世界の資本を呑みこみ、その跡に到るところ空洞を生ぜしめた。倫敦市場のみでもその地理書をひもとくまでもなく、一日数万の米国株式の売買があった。巴里《パリー》、伯林《ベルリン》、ブラッセル、アムステルダム、何《いず》れも電信の速力は一杯にウォール街に資金を流入した。大西洋北岸の富の余剰《よじょう》はいまや米国株式に変形したと歎《たん》じさせた。このウォール街にも遂《つい》に破局があった。財界|平衡則《へいこうそく》に反した信用のインフレーションは英蘭《イングランド》銀行の利下げとともにその崩落の道をたどった。云々。)
 英国金融資本が、米国産業資本に強靭《きょうじん》な波瀾《はらん》をまきおこしたために、米国資本を背景とした商工都市大阪は、ウォール街を恐怖がおそうと同時に、赤鼻女の野暮なアメリカの衣裳をつけて財界の迷路に立った。
 また、銀塊《ぎんかい》相場を暴落させた、ワシントンの要路の背景にあったものは、誰か。
 一九二六年、恐慌状態にあった銀塊市場にたいして、英領|印度《インド》において組織された印度貨幣金融委員会が、一九二七年三月二十七日、三億五千万オンスの銀持高をもって、ルーピーの新貨幣制を決定した。その背後にあって英国当局者は銀売、金買いの機微な策略によって今日を期していた。
 資本主義戦争の尖端《せんたん》を行くもの、これも、犯人は英国であった。
 突然、電鈴が私の耳に亀甲町にある、綿花綿布倉庫会社の事業停止による賃金不払のため、従業員のストライキを報《し》らせた。

 だが、諸君。
 これは何んのためのストライキだ。

     6

 夜になって襲来した暴風雨が、街から灯火を奪った。
 午後と、午前の境界にもかかわらず、ラジオが、倫敦から放送される歌謡を伝播《でんぱ》していたのを疾風のなかで私は嚥《の》み下した。ココア色
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