お高うございますわ。」
 色の黒い肥まんした男が腹をかかえてわらいだした。片ひじついた彼女の鋼鉄のような腕に血管が運河のように青く浮きでた。
「それでご用は?」と、無作法に両股をひろげて男が云った。
 すでに彼女は隠密にものを云う女になっていた。
「あら、こう云ったからって妾は打算と赤鼻が好きさ。ぜひお願いしますわ。と、云うのは妾が愛撫してくれる男を待っているわけじゃないわ。実はマクローにだって衣裳が要るように、あなた妾を労働女にして街に棄てないでちょうだい。分って。」
 厚化粧した彼女の覊絆《きはん》の下で男が云った。
「わしはそのお礼によって、あとくされと紛議をかもさないように奥さんにご用立てしましょう。」
「利子は妾よ。」ずばりと彼女は云うと、化学的な香料のにおいを発散させながら、黄煙草のけむりで太田ミサコは傲慢なわらいを浮べた顔をくもらせた。
 しかし、タイプライター刷のような事務的な男の言葉がつづいた。
「カァキイ色の小切手を出しましょう。失礼ですが、奥さんは必要なもののありかをご存じですか。」
「いただくわ。契約するわ。」
「期日は。」
「只今だわ。契約期限切れは赤の他人だ
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