を致しますかわりに、それだけに、駈引のある商人的なお取引はいやなのでございます。それに妾は女でございますから、お話しがむつかしくなりますと手を引くより外に道がございません。では、三マルとして手を打っていただきとうございます。妾は女でございますもの、それなのにあなた様の土地は無力な妾がつねから欲しいと思った土地なんでございます。三マルでおゆずりくださいませ。いつまでもご恩にきますわ。」
 痩せた老年の男が憤怒のために立あがった。
「いまになって三マルとはひどいではないか。昨日まであんたは四マル半ぐらいなら妾がいただくから他には話さないでくれと狂気のようになってわしにたのんだ。わしはあんたを信じた。あんたは、わしが今日限り抵当ながれにならなくてはならないわしの土地についてはよく承知なんだ。」
「妾残念に存じます。妾の無力をわたしは悲しく存じますわ。」
「あんたはわしを死ぬような目にあわしなすった。」
「どうか、妾を悪い女にしないでください。あなたのお顔を見ていると、妾はいまになってどうしていいか分らなくなってしまったのです。」
「万事休す。わしはだまされた。」
 影を失った、老いた男を横目
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