な色にかわると、ポール商会に金属的な悲鳴が聞こえた。
「馬鹿、うすのろ、妾を侮辱したね、妾のプライドをきずつけたんだ。ああ、口惜しい。」
ミサコの馬の脚のような涙に驚愕《きょうがく》して、彼女の夫は帽子をつかむと街路に逃げだした。うすい唇に白い歯をうかべてカリタが云った。
「ミサコさん、あなたが泣くと僕はあなたという人がどんなに正直な美しい心を持った女であるか分るんだ。僕は英国女のようにもの堅いあなたを尊敬しているんです。」
彼女が泣くのをよして、お化粧を一きわ濃く塗りながら、
「彼《あ》の人は妾にいつも恥をかかすのです、彼の人が愚鈍《ぐどん》なために、妾は、妾が良妻であるにもかかわらず世間から誤解をまねくようなことになるんだわ。」
ミサコが堅固な意志をとりかえすと、ふたたびポール商会は、事務と秩序と美にたいする感覚をとりかえして、使傭人《しようにん》たちが忙しそうに饒舌《しゃべ》り、お世辞と商才が火華のように顧客を魅了した。
6
「この方は妾の顧問弁護士でございます。」
カリタをかえりみて彼女が相手の痩《や》せた男に云った。
「妾はいつも間違いのないようにお取引
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