、不思議に透徹した眼光が妾を凝視しているのです。妾はモンマルトルの地獄のカバレの我父《モンペール》フレデリック老人を思い出したほどです。併しロダンさんは、妾に優しく椅子をすすめると、自分が妾、東洋の女優の美に対する興味の異状であること、マルセーユの石山のノートルダム寺院の尖塔《せんとう》の黄金像にもまして、自分は、日本女優花子の美は自分にとって尊いなどと、お世辞を仰有《おっしゃ》るのです。妾は街角に灯された石油ランプの青い灯に東洋が映るやうな気がしました。どうか、自分の彫刻のモデルになって呉れるようにと、ロダンさんは仰有ったのです。妾達の曲芸団はマルセーユの興行を打揚げると、スペインのバルセロナの街に小屋を下しました。妾は無智な女で、芸術家に対する理解なんてなかったので、ロダンさんのことはすっかり忘れていました。それに妾はジョージ・佐野を愛していたので、他のことは考える暇がなかったのでした。妾達はラムブルデル・セントロの椰子《やし》の大通りで、狂気のように接吻しました。コロンブスの銅像の前で、陽気に恋を語りました。カルメンの兵士も、意気な紳士達も、真赤な帽子を斜《はす》かいに被《かぶ》
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