に白い眼をひらくと、
「ううん、おれがよくなかった。」
「マリ、お前こん夜俺につきあうか。」
「なんでもよくきく。」
私達は腕をくむと、附近の青天白日旗《せいてんはくじょうき》の飜《ひるがえ》っている、支那公使館のまえのインタナショナル・バーの酒卓へ座ると、盃をかちあわした。卓子《テーブル》におかれたザシカのクンセイのような扮装をして女達がワルツを踊っていた。女将のアレキサンドラは片隅で亭主の白系露《はっけいろ》人とポーカーを七枚のカードを並列してやっていた。青い日本服をきた混血児が、なよ/\とした腰に支那人の中学生の腕をからませて踊っていた。もと神戸の元町のボントン・バーにいた、肥太《ふと》った女がひどく酔って悪臭を放っていた。ロシア人の老人夫婦が、ロシア・クラシック・オペラの一節を弾じはじめた。
ウォッカの酔いがまわると、マリがアレキサンドラの娘をとらえて饒舌《しゃべ》りだした。
「おい、ナタリー、おまえおれの女房になってくれ。」
「マリ、するとあんたが妾《わたし》のダンナさんね。」
「うん、そうだ。」
すると、ナタリーが眼脂《めやに》をふいてこたえた。
「わたし、いやです。
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