ら、いくばくもなく現象と実在とを分割して、現象は表面のもの、実在は裏面のものとして、実在を現象の彼岸に在るものとして立する立場をとることになる。ちょうど舞台と楽屋のように表面裏面の二方面を考えて説くのである。現象が舞台なれば実在は楽屋である。これを二元的実在論といったならばよかろうと思う。この見方は前の一元的表面的実在論に較《くら》ぶれば、ずっと分析的に進んだ見方であるけれども、実在を空間的に考うるところに非常な誤謬がある。現象を空間的に考えるのは差しつかえないけれども、現象を超越したる実在を現象と同じく空間内に引き入れて考えるということは、矛盾の甚しいものである。けれども、とかくしらずしらずそういう誤謬に陥っている思想家が多い。ドイツの哲学者は hinter den Erscheinungen, 英国の哲学者は behind the phenomena といっている。
 かかる実在論に対して、自分は融合的実在論の立場をとって、これを「現象即実在論」と名づけたのである。「現象即実在論」というのは、現象そのものをただちに実在とする第一段階の実在論とは大変にちがうのであるから、けっして両者
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