洋の倫理を打って一丸とし、実行するでなければならぬという考えから、余は国民道徳を主張し、学界の欠陥を補い、大いに倫理を実際的ならしむるに努力したのである。しからばその国民道徳は理想主義であるか功利主義であるかといえば、利用厚生と云う程度において功利主義と矛盾しないけれども、そこにとどまらないではるかにそれを突破して向上するものであるからむろん理想主義である。

   五 宗教観

 宗教に関しては、自分の論文はしばしば『哲学雑誌』および『東亜の光』等に発表したので、今くわしくこれを論ずるの暇はないけれど、畢竟、理想的倫理的の宗教を最も進歩したる宗教として主張したのである。宗教の発展の過程を三段階に分けて考えることができる。第一段階の宗教は原始的の幼稚なもので、道徳観念がはなはだ乏しくして、倫理上から見て無価値といっても差支えないくらいである。むしろ倫理道徳に反した残酷なことが多いくらいである。それがいっそう発展すると、民族的宗教となってだいぶ倫理道徳の要素が加わってくる。けれどもまだまだ倫理道徳に無関係なことが大部分を占めている。倫理道徳の要素は十中の三か四ぐらいのものである。ところが
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