寺田寅彦

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)身慄《みぶるい》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)老翁を包んだ時|余《よ》は

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)墓の※[#「門<困」、第4水準2−91−56]《しきい》
−−

 またひとしきり強いのが西の方から鳴って来て、黒く枯れた紅葉を机の前のガラス障子になぐり付けて裏の藪を押し倒すようにして過ぎ去った。草も木も軒も障子も心から寒そうな身慄《みぶるい》をした。ちょうど哀れをしらぬ征服者が蹄《ひづめ》のあとに残して行く戦者の最後の息であるかのような悲しい音を立てている。これを嘲る悪魔の声も聞えるような気がする。何処の深山から出て何処の幽谷に消え去るとも知れぬこの破壊の神は、あたかもその主宰者たる「時」の仕事をもどかしがっているかのように、あらゆるものを乾枯させ粉砕せんとあせっている。
 火鉢には一塊の炭が燃え尽して、柔らかい白い灰は上の藁灰《わらばい》の圧力にたえかねて音もせずに落ち
次へ
全4ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング