また足が自働的に動いて行くか、そこまではまだ研究が届かぬそうである。
[#地から1字上げ](明治四十年十月二十日『東京朝日新聞』)
(二)光を放つ烏賊
次に面白いのは海底で光を放つ烏賊の話である。一体頭足類の動物中で多少の光を放つものが三十種以上もある。中にも非常に深海底から発見されたソーマトランパスと名づけるもののごときは、その光彩の美実に宝石をはめたようだという。例えば眼の辺には紺青色と真珠色の光を放ち、腹部にはルビー色、雪白色および空色の光斑を具えている。こういう怪物が真暗な深海の底を照らして游泳する処もまた一奇観であろうと思われる。そこでこの種の動物の発光器はどんな仕掛けで出来ているものだろうと色々研究した結果、二種の区別が知れた。すなわち一種のものでは光を放つ液体を分泌する腺を備え、他の種類では動物の組織の一部が発光するのだそうである。後者に属する発光器にはこれに附属したレンズや反射鏡のごときものを備えた極めて精巧なものもあるという話で、また発光器の中には体の内腔にあって透明な肉を通して光を放つものもあるそうである。前に述べたソーマトランパスなどでは総計二十二個の発光器
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