って容易に火熱のために融けぬから、これで種々の器物を製するは困難であった。しかるに先年来は酸水素吹管で水晶の小片を熔かして細い棒とし、これを沢山に熔かし合せて管やフラスコを作る事が出来るようになった。近頃また電気の熱で勝手な形の瓶などを作る法が発明されたそうである。その法は先ず鋳型の中へ水晶の粉を詰め、その中に炭の棒を挿し込んでこれに強い電流を送り、粉が熔けた時に型の口から空気を吹き込めばよいという事である。いったん熔かした水晶製の器物は耐火力が強く、また熱のために破れる憂いがない。真赤になるほど焼いたのを冷水中に投じても何の異状もないというのが特長である。
[#地から1字上げ](明治四十年十二月二十七日『東京朝日新聞』)
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         五十五

      巨船モーレタニア

 先日ルシタニア号の話を掲げたが、その姉妹船モーレタニア号に関する概略の数字だけ比較のために挙ぐれば、船の長さ七百六十フィート、幅が八十八フィート、トン数三万二千。乗客の数は一等五百六十三人、二等四百六十一人、三等千百三十八人、試運転の平均速度二十六浬《かいり》三である。

      女優と無線電信

 有名な仏の女優サラ・ベルナールは近頃北米と欧洲との間に開通された無線電信について次のような事を云っている。「このようにヨーロッパとアメリカとが虚空を距《へだ》てて睦まじく接吻するようになったのは科学の力の最も詩的な表現である」と。
[#地から1字上げ](明治四十年十二月二十八日『東京朝日新聞』)
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         五十六

      天然色写真

 先日本紙に載せてあった天然色写真の新法よりなお一層新しい法が見出された。それはウワーナー・ポオリーの法と云うので、去る十月ロンドンで開かれた天然色写真会で展覧に供した。先日のリュミエール会社のオートクローム板は三色の澱粉を混合して作ったものだが、今度のは種板の上に三色の細い線を並べたもので大体の理窟は前のと変りはない。色のついた線を作るには細い格子のようなものと護謨《ゴム》写真と同じ法で板に写しこれを染めるのである。この種の写真では色はよく出ても一体に暗くなるのが欠点であるが、ポオリー氏は特別な仕掛けでこれを照らし一体を明るく見せるようにしたという事である。前のと今度のとの優劣は現物を較べてみねばわから
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