[#地から1字上げ](明治四十年十一月二十六日『東京朝日新聞』)
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         四十五

      眼の濫用

 近頃スコットという人が読書の眼に及ぼす害について某雑誌に述べている。その中に次のような事を云っている。「元来人類の眼はかなり遠距離の物体を見るように進化して出来ているものであるが、近年のように書籍や新聞雑誌などが無闇に沢山になっては一通りでも眼を通すのはなかなか大抵の事でない。それで眼というものの天然の役目の外に、新しいしかも不馴れな役目が増したから早晩どうしても何等かの害を生ずるようになる。」少年などにはあまり必要もない読書をさせぬようにせねばなるまいという事である。
[#地から1字上げ](明治四十年十一月二十七日『東京朝日新聞』)
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         四十六

      大洋中の拾い物

 本月十四日の本紙に横浜の人が北太平洋で鮫漁中に英文の手紙の入った空瓶を拾うた記事が出ていたが、近着の科学雑誌を見ると次のような事が載せてある。「ウードジョーンスという人が一昨年の暮にインド洋から空瓶を数個海中に投じ、その中に手紙を封入して誰でもこれを拾うた人はその場所と時日を通知するように依頼してあった。ところが昨年の五月にアフリカのソマリの海岸でその中の一本を拾い上げ、また今年の七月同じ処で他の一本を拾い上げた。それでインド洋の真中から西の方へ向うた不断の潮流がある事が知れる、云々」。北太平洋のもあるいはこの仲間でないとも限らぬから罎《びん》の写真でも撮って知らしてやったらよかろうと思う。
[#地から1字上げ](明治四十年十一月二十八日『東京朝日新聞』)
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         四十七

      英国の軍用軽気球

 先月初、ロンドン附近で軍用軽気球の試乗があった。アルダーショットからロンドンまで一時間二十四マイルの速度で飛行し、聖《セント》ポールの寺院を一まわりして今度は風に逆らって進んだが、あまり風が強かったから水晶宮の辺で地上に下った。飛行した全距離五十マイル、地面より平均七百五十フィートの高さを航したそうである。

      狂人の眼と髪

 これはスコットランドの話で我邦には応用し難いかも知れぬが、同地の瘋癲《ふうてん》病院で調査した処によれば、統計上狂者には普通の人よりも眼の色が薄く髪の色
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