店の名を付けなかったが、商売は非常に繁昌し子孫代々名無しの牛屋で通っている。名を付けると先代以来の幸運に障るというような迷信から子も孫も屋号を付けなかったためだそうな。
[#地から1字上げ](明治四十年十一月二十日『東京朝日新聞』)
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四十二
ラジウムの新産地
従来ラジウムの産地と云えばほとんどボヘミアに限られていたが、この頃アルプス山で有名なシンプロン隧道《トンネル》附近にかなり多量のラジウムがあるという事がわかったそうな。同隧道の奥の方の地温が著しく高いのはラジウムが発する熱のためではないかという説がある。
水の清浄法
近頃汚水から清水《せいすい》を得るのに電気分解を用いる法が出来た。汚水中にアルミニウムの電極を入れて電流を通ずれば、過酸化アルミニウムを生じ、これが種々の汚物に結合して固まってしまう。これを一遍|漉《こ》せば非常に清浄な水が得られるそうである。
[#地から1字上げ](明治四十年十一月二十一日『東京朝日新聞』)
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四十三
長距離の急行列車
去る九月十六日、北米の大西鉄道では二百六十三マイルの間を一度も停車せずに走る別仕立の三等客車を出したが、平均一時間に五十三マイルの速度で首尾よく目的地に達した。こんな長距離の急行はあまり例のない事である。
海底のランプ
近頃米国のデイオンという人が専売特許を得た海底灯というのは、港などの水底に強烈な電灯を点じて、闇の夜や霧のある時入港を容易ならしむる仕掛けであるそうな。
[#地から1字上げ](明治四十年十一月二十五日『東京朝日新聞』)
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四十四
象を馴らす事
アフリカのコンゴーでは象の馴致《じゅんち》を盛んにやる。近頃同地へ視察に行った人の通信によれば、目下馴らしている象が二十五頭でそのうち十九頭には種々の作業をさせている。雨期が来ると皆解放して森林の棲家へ帰してやるが、また飼養所へ帰って来る。その際往々森の中から野象を連れて来る事があるが、大抵もう年を取り過ぎていて馴らしにくいものが多いそうな。アフリカの象は一体背が低く、コンゴーで馴らしているのは肩の高さ四フィート四インチくらいから五フィート七インチくらいなものだという。
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