ができるものらしい。
二 卓上演説
近年いろいろの種類の宴会で、いわゆるデザートコースに入って卓上の演説がはやるようである。あれは演説のきらいな人間には迷惑至極なものである。せっかく食欲を満足したあとでアイスやコーヒーを味わいかけていい心持ちになっている時分に、これが始まるのである。あまりおもしろくもないあるいはむしろ不愉快な演説を我慢して聞くのはまだいいとしても、時によると幹事とか世話人から「指名」などと言って無理やりに何かしゃべる事を強要される。それでも頑強《がんきょう》に応じないと、あとから立つ人の演説の中で槍玉《やりだま》にあげられる。迷惑な事である。
あれはともかくもやはり西洋人のまねから起こった事には相違ない。不幸にして西洋の社交界へ顔を出した事がないし、出たところで言語がよくわからないから、西洋の卓上演説がどんなにあくどいものかばからしいものかを承知しない、従って日本の卓上演説との比較も何もできない。
いちばん最初にああいう事を始めた人はどういう人か知らないがおもしろい事を発明したものである。しゃべる事の好きな人が、ごちそうを食っていい気持ちになった時
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