的関係から呼び出される連想としては「身はぬれ紙の取り所なき」に対する「小刀の蛤刃《はまぐりば》なる細工箱」のごときがそれである。ぬれ紙が小刀を呼び出したのである。もちろん芸術的の価値は全く別問題である。
 物質から来る連想の例では「居風呂《すえふろ》の屋根」「椴《とど》と檜《ひのき》」「赤い小宮」と三つ続くようなのがある。
「干葉《ひば》のゆで汁《じる》悪くさし」「掃けば跡から檀《まゆみ》ちるなり」「じじめきの中でより出するり頬赤《ほあか》」の三句には感官的に共通な連想があるのみならず、空間的排列様式の類似から来る連想がある。「生きながら直《すぐ》に打ちこむひしこ漬《づけ》」「椋《むく》の実落ちる屋根くさるなり」なども全く同様な例である。こういう重複はもちろん歓迎されないものである。
 こういう例はあげれば際限はない。そうしてこういう例として適当なものは、連句として必ずしも上乗なものではなく、むしろあまりよくないほうが多いかもしれない。それはむしろ当然である。連想で呼び出される第一影像はただ一つの可能な付け句の暗示に過ぎないので、それだけでは決して付け句は成立しない、この第一影像を一つ
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