べない。ただこの比較から得らるる一つの暗示は、歌仙の形式で芭蕉《ばしょう》以来の伝統的な形式とちがった、西洋音楽のそれのようなものをも作りうるのではないかということ、またこれと逆に俳諧の構造を音楽のほうに移して連句的な楽章配置をもったソナタやコンツェルトを作ることはできないかということである。これはただの暗示であるが、ともかくも一つの可能性を示唆するものであろうと思われる。
元来この四楽章構成は決して偶然なものではなくて、ちょうど漢詩の起承転結などにも現われまた戯曲にも小説にも用いられる必然的な構成法であって特に連句のみに限られたことではないのであるが、しかしその構成要素の音楽的な点から見て連句の場合ほど適切なる比較を許すものは他にはないのである。
さて上記の考え方では、連句の長句一つ、短句一つを、それぞれの一つの音に比較するという前提のもとに考えを進めたのであるが、これは多くの中の一つの考え方であって、唯一無二の考え方ではない。これよりももっと適切で有効な比較はいくらもあるであろう。たとえばわれわれは次のような比較を試みることもできる。
前述のように連句中の一句一句をそれぞれの
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