句になるとよほど活発にあるいはパッショネートになって来て、恋をしたり子をかわいがったり大病をしたり坊主になったりする。しかし全体のテンポは私にはむしろ緩徐に感ぜられ、アダジオのような気持ちがする。ところが第三楽章の十二句になると、どうもだいぶ気が軽くなり行儀がくずれてはれた足[#「はれた足」に傍点]を縁へ投げ出したり物ごとにだだくさ[#「物ごとにだだくさ」に傍点]になったり隣家とけんかをしたり雪舟《せっしゅう》の自慢をしたりあばたの小僧をいやがらせたり、どうもとかくスケルツォの気分が漂って来る場合が多いようである。そうしてテンポも早くアレグロになり、時にはプレストにもなるようである。ところが最終の第四楽章に入ると、再びもとの静かさに帰る、そうして「花の座」が現われ、最後に、ゆるやかなあげ句で、ちょうど春の夕暮れのような心持ちで全編が終結するのである。これはもちろんラルゴかレントの拍子である。このように連句の場合では1と4が緩徐であるのに、音楽のほうでは1と4が急テンポである事自身がまたわれわれにおもしろい問題を提供するのであるが、これについてはあまりに岐路に入ることになるのでここには述
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