リアライズ》されるような気がした。
四月二十八日
朝六時にスエズに着く。港の片側には赤みを帯びた岩層のありあり見える絶壁がそばだっている。トルコの国旗を立てたランチが来て検疫が始まった。
土人の売りに来たものは絵はがき、首飾り、エジプト模様の織物、ジェルサレムの花を押したアルバム、橄欖樹《かんらんじゅ》で作った紙切りナイフなど。商人の一人はポートセイドまで乗り込んで甲板で店をひろげた。
十時出帆徐行。運河の土手の上をまっ黒な子供の群れが船と並行して走りながら口々にわめいていた。船ではだれも相手にしないので一人減り二人減り、最後に残った二三人が滑稽《こっけい》な身ぶりをして見せた。そして暑い土手をとぼとぼ引き返して行った。両岸ことにアラビアの側は見渡す限り砂漠《さばく》でところどころのくぼみにはかわき上がった塩のようなまっ白なものが見える。アフリカのほうにははるかに兀《ごつ》とした岩山の懸崖《けんがい》が見え、そのはずれのほうはミラージュで浮き上がって見えた。苦海《ビッターシー》では思いのほか涼しい風が吹いたが、再び運河に入るとまた暑くなった。ところどころにあるステーションだけには
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