くて実にのんきにぼんやりしていたのである。
O氏の主催で工業クラブに開かれた茶の会で探険隊員に紹介されてはじめて自分のぼんやりした頭の頂上へソビエト国の科学的活動に関する第一印象の釘《くぎ》を打ち込まれたわけである。
隊長シュミット氏は一行中で最も偉大なる体躯《たいく》の持ち主であって、こういう黒髪|黒髯《こくぜん》の人には珍しい碧眼《へきがん》に深海の色をたたえていた。学術部長のウィーゼ博士は物静かで真摯《しんし》ないかにも北欧人らしい好紳士で流暢《りゅうちょう》なドイツ語を話した。この人からいろいろ学術上の仕事の話を聞いた後に「日光《にっこう》は見たか」と聞いたら「否」、「芝居は」と聞いたら「否」と答えたきりで黙ってしまった。海流の研究の結果から氷洋の中に未見の島の存在を予報したこの人には「日光」や「カブキ」は問題にならなかった。地球磁力や気象の観測を受け持って来たただ一人の婦人部員某夫人は、男のように短く切りつめた断髪で、青い着物を着ていた。どこか小鳥のような感じのする人で仏語のほかは話さなかったようである。そのほかの若い生物学者や地質学者やみんなまじめで上品で気持ちのいい人
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