干そうと思う。そうして自分の内部の機能にどのような変化が起るかを試験してみようと思っている。もし私の眼や手になんらかの変化が起ったら、その新しい眼と手で私の過去を見直し造り直してみよう。そしてその上に未来の足場を建ててみよう。もしそれが出来たら「厄年」というものの意義が新しい光明に照らされて私の前に現われはしまいか。
こう思って私は過去の旅行カバンの中から手捜《てさぐ》りに色々なものを取り出して並べて見ている。
先ず色々の書物が出て来る、大概は汚れたり虫ばんだりしてもう読めなくなっている。様々な神や仏の偶像も出て来るが一つとして欠け損じていないのはない。茶褐色に変ったげんげ[#「げんげ」に傍点]やばら[#「ばら」に傍点]の花束や半分喰い欠いだ林檎もあった。修学証書や辞令書のようなものの束ねたのを投げ出すと黴臭《かびくさ》い塵が小さな渦を巻いて立ち昇った。
定規《じょうぎ》のようなものが一|把《わ》ほどあるがそれがみんな曲りくねっている。升《ます》や秤《はかり》の種類もあるが使えそうなものは一つもない。鏡が幾枚かあるがそれらに映る万象はみんなゆがみ捻《ねじ》れた形を見せる。物差のよ
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