うなもので半分を赤く半分を白く塗り分けたものがある。私はこの簡単な物差ですべてのものを無雑作に可否のいずれかに決するように教えられて来たのであった。骨牌《カルタ》のような札の片側には「自」反対の側には「他」と書いてある。私は時と場合とに応じてこの札の裏表を使い分ける事を教えられた。
見ているうちに私はこの雑多な品物のほとんど大部分が皆貰いものや借り物である事に気が付いた。自分の手で作るか、自分の労力の正当な報酬として得たもののあまりに少ないのに驚いた。これだけの負債を弁済する事が生涯に出来るかどうか疑わしい。しかし幸か不幸か債権者の大部分はもうどこにいるか分らない。一巻の絵巻物が出て来たのを繙《ひもと》いて見て行く。始めの方はもうぼろぼろに朽ちているが、それでもところどころに比較的鮮明な部分はある。生れて間もない私が竜門《りゅうもん》の鯉を染め出した縮緬《ちりめん》の初着《うぶぎ》につつまれ、まだ若々しい母の腕に抱かれて山王《さんのう》の祠《やしろ》の石段を登っているところがあるかと思うと、馬丁に手を引かれて名古屋の大須観音《おおすかんのん》の広庭で玩具を買っている場面もある。淋しい
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