得る言葉があるのが驚くべき事だとピアソンは云っている。しかしあるいはこれらの力の方則を表わすべき数式の第一項に対して第二項以下の小さい事に驚くと云わねばならぬ事になりはしまいか。少なくともそういう風に考える方が自然科学者の今日の立場としてむしろ妥当ではあるまいか。しかしこの疑問以上に立ち入る事は科学者の領域以外に踏み出すと思う。
 こんな事を書いて公にしようというについて一つ考えなければならぬ事がある。すなわちかくのごとき漠然たる議論を並べた結果、一部の読者には誤解を生じまた一部の学者からは独断の邪説でとして攻撃される虞《おそれ》が甚だ少なくないように思う。ある読者はますますあるいは始めていわゆる精密科学の基礎の案外薄弱な事を考えて、その価値と効果を疑うかもしれない。しかし自分がここまで述べて来た事は正にこの点について疑いを解かんがためである。この疑いに対しては今まで述べた事をもう一遍繰返す外はない。そしてかくのごとき基礎の上に立った学問の効果は眼前の科学的文化である事を附け加えたい。次に学者の方から見れば、重力の方則等までも近似的と見做したりするような考えは幾多の非難があるかもしれな
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