鞄《おりかばん》でも抱えた日本魂をも教える方がよくはないかという気がしたのである。
それはとにかく、このドイツ訳がどれくらい原著に忠実であるかということは自分には分かりかねるが、しかしところどころあたってみるとかなり在来の日本人の註釈などとはちがっていて誤訳ではないかと思うところもある。しかしこのドイツ訳の方がともかくも話の筋がよく通っていて読んで分かりやすいことだけはたしかである。例えば「大方無隅《たいほうむぐう》。大器晩成《たいきばんせい》。大音希声《たいおんきせい》。大象無形《たいしょうむけい》。」というのを「無限に大きな四角には角がない。無限に大きい容器は何物をも包蔵しない。無限に大きい音は声がない。無限に大きな像には形態がない」と訳してある。「大器晩成」の訳は明らかにちがっているようではあるが、他の三句に対してはこの訳の方がぴったりよく適合するから妙である。それは別として、ここのドイツ訳は数学者や物理学者にとってなかなか面白く読まれるであろう。同様な意味で面白いのは「大曰逝《だいをせいといい》。逝曰遠《せいをえんといい》。遠曰反《えんをはんという》。」の最後の句を「無限の遠
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