るという幸運を持合せたのであろう。何が仕合せになるかもしれないのである。
四 半分風邪を引いていると風邪を引かぬ話
流感が流行《はや》るという噂である。竹の花が咲くと流感が流行るという説があったが今年はどうであったか。マスクをかけて歩く人が多いということは感冒が流行している証拠にはならない。流行の噂に恐怖している人の多いという証拠になるだけである。
流感は初期にかかると軽いが後になるほど悪性だとよく人が云う。黴菌《ばいきん》がだんだん悪ずれがして来て黴菌の「ヒト」が悪くなるせいでもなさそうである。
流行の初期に慌《あわ》てて罹る人は元来抵抗力の弱い人ではないかと思う。そういう弱い人は、ちょっと少しばかり熱でも出るとすぐにまいってしまって欠勤して蒲団《ふとん》を引っかぶって寝込んで静養する。すればどんな病気でも大抵は軽症ですんでしまう。ところが、抵抗力の強い人は罹病《りびょう》の確率が少ないから統計上自然に跡廻しになりやすい、そうしてそういう人は罹っても少々のことではなかなか最初から降参してしまわない。そうして不必要で危険な我慢をし無理をする、すれば大抵の病気は悪く
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