写真電送機械の機構にもやはり同様な原理が応用されている。この場合には土器を漏れる水の代りにフィルムを巻いた回転円筒が使われ、棒に刻んだ線を人間が眼で見て烽火を挙げる代りに真空光電管の眼で見た相図《あいず》を電流で送るのである。
自働電話の送信器の数字盤が廻るときのカチカチ鳴る音と自働連続機のピカピカと光る豆電燈の瞬きもやはり同じような考えを応用して出来た機構の産物であると見れば見られなくはないであろう。
このように、二千年前の骨董《こっとう》の塵の中にも現代最新の発明の種があるとすれば、同じ塵の中には未来の新発明の品玉がまだまだいくらも蔵されているかもしれない。
「アー、そんなものは君、もう二十年も前にドイツの何某が試みて失敗したものだよ」といったようなことをしたり顔に云って他人の真面目なそうして実際はかなり有望な独創的研究をあたまからけなしつけるようないわゆる大家も決して珍しくはない。「それは君、昔フランスでやったものだよ」と云って若い技師の進言を言下に退ける局長もまた珍しくはないであろう。これらの大家や局長がアイネアスの兵法を読んでいなかったおかげで電信印字機や写真放送機が完
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