文学の中の科学的要素
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)渾沌《こんとん》たる状態

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)科学的|破綻《はたん》があって

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](大正十年一月『電気と文芸』)
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 同一の事象に対する科学的の見方と芸術的の見方との分れる点はどこにあるだろう。
 科学も芸術もその資料とするものは同一である。それを取扱う人間も同じ人間である。どちらも畢竟は人間の「創作」したものである。人間の感官の窓を通して入り込んで来る物を悟性や理性によって分析し綜合して織り出された文化の華である。それであるのに科学と芸術とは一見没交渉な二つの天地を劃しているように思われる。このような区別はどこから来たものであろうか。
 吾人が事象に対した時に、吾人の感官が刺戟されても、無念無想の渾沌《こんとん》たる状態においては自分もなければ世界もない。そのような状態が分裂して、能知者と所知者が出来る事によって、始めて認識が成立し始める。そこから色々な観念が生れ、観念は更に
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