分裂してより多く共通な要素に分析されてそこに秩序が出来、「言葉」が出来、「方則」が出来る。
 科学が科学以外の学と異なる根本はどこにあるかと云えば、所知者をして所知者を記述させ説明させる事である。能知者から解放された所知者相互の関係を取扱うものと考えてもよい。勿論能知者なくして所知者の成立し得ない事は明らかであるが。かくのごとくして成立した所知者は能知者の存在に無関係な独立の実在であると仮定する。そうしてそのような所知者の世界には時と空間に関する整合が存在し、普遍にして必然な因果関係が存在するという事を前提として、そういう型にはまるようにこの世界を処理して行く。そういう試みがある程度まで成効した結果が今日の科学である。
 従来哲学の一部分であった科学が、近世の始め文芸復興期以来に長足の進歩をなした所以《ゆえん》もまた科学の対象が能知者から解放された事に起因すると云ってもよい。科学が価値道徳の問題から離れて自由な天地を得たために始めて手足を延ばしたのである。しかしかくのごとくして出来た科学の別天地はもともと便宜上から所知者を切り離して出来たものであるから、問題が能知者との関係にわたる場合
前へ 次へ
全12ページ中2ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング