行なわれるようになった。その結果としておもしろいことには、われわれが従来捨てて顧みなかった上記の種類の不決定な事がらに対して、もはやいつまでもそうそう無関心ではいられなくなって来たと私には思われる。なぜかというと、上記の種類の現象の根本に横たわる形式的要素が、新物理学の基礎に存するそれらとどこか共通なものを備えているからである。
 原子の構造とその性能に関してわれわれは個々のエネルギー水準の考えを導入した。しかしてそれはある方程式の固有値と称するものと連関していると考える。これは最も簡単な類型的の一例とさるる弦の振動の場合ならばその節点の数を決定するものであり、要するに連続的なものの中でただ特定なものだけの実在を決定するものである。ところでたとえば鈴木清太郎《すずきせいたろう》博士の実験で、円板の中心を衝撃する際に生ずる輻射形《ふくしゃけい》の割れ目が衝動の強さに応じて整数的に増加して行く現象のごとき、おそらくある方程式の固有値によって定まるであろうということは、かつて妹沢《せざわ》博士も私に指摘されたことであるが、これは当面の解式を得るまでもなく予想し得られたことである。これから想像
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