が古典的な物理学と矛盾していて、まだどうしてもその間の融和がとれないところを見てもプランクの望むような統一はまだ急に達せられそうもない。
 今のところでは生物界の現象に関しては物理学はたいてい無能である。レーブのごとき一派の学者が熱心に努力しているにもかかわらず今のところ到底目鼻もつかぬようである。生物現象がすべて現在の物理学で説明できようとは思われぬが、しかしプランクが無生物質界の方則の統一を理想とするならば、もう一歩を進めて物理生理あるいは心理学までも包括して渾然《こんぜん》たる一つの「理学」という系統がいつかは設立されるという理想をいだく事もできない事ではない。それがもしも可能であるとすればそうなるまでには今の物理学はまだまだよほど根本的な改革を受けなければなるまいと思う。
 このような考えからも自分はマッハの説により多く共鳴する者である。すなわち吾人に直接に与えられる実在はすなわち吾人の感覚である、いわゆる外界と自身の身体と精神との間に起こる現象である。このような単純な感覚が記憶や連想によって結合されて経験になる。これらの経験を総合して知識とし知識を総合して方則を作るまでには種
前へ 次へ
全18ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング