電子またはその集団の電場におかれると、力を受けて自由の状態にあれば有限な加速度をもって運動する。すなわち質量を有するのである。
 しかるに一方において荷電体が動く時はその周囲の電場を引連れて動く。その時この電場の運動のためにいわゆる磁場が起る、電流の通ずる針金の周囲に磁場を生じるのはすなわちこれである。かくのごとくして起る電磁場は一種の惰性を有する事が実験上から知られる、すなわち荷電体を動かし始める時には動くまいとし、動いているのを止める時には運動を続けようとする、丁度物質質量と同様な性質を有しているのである。質量の定義に従えば荷電体従って電子はそれが電気を帯びているために一種の質量を有すると云わなければならぬ。従って上の物質の定義に従えば、電気はすなわち物質と云わなければならない。但しその質量の少なくも一部分はその周囲電磁場のエネルギーに帰因するものである。しからばエネルギーはすなわち物質か。こういう疑問が自《おの》ずから起らぬを得ないのである。吾人が通例取り扱っている物質の質量なるものはその物の速度|如何《いかん》によって変らない。しかるに荷電体の電磁的質量は速度よって変るものであ
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