物質とエネルギー
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)工合《ぐあい》が悪い

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)ガリレー以来|漸《ぜん》を追うて

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](大正四年頃)
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 物には必ず物理がある。ここにいわゆる物とは何ぞや、直接間接に人間五感の対象となって万人その存在を認めあるいは認め得べきものを指す。故に幽霊はここにいわゆる物ではない。夢中の宝玉も物ではない。物理学者は通例物質とエネルギーという二つの物を認める。物質の定義が困難である。教科書などには質量を有するものとも書いてあるがこれは言葉を換えたに過ぎない。質量という考えを明らかにするにはどうしても力という考えを固めなければ工合《ぐあい》が悪い。力という言葉の起原はつまり人間の筋力の感覚から発達して来たものに相違ない。そうしてこの考えを押し拡げて吾人《ごじん》の身辺を囲繞《いにょう》するあらゆる変
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