をやる人とで本来の素質に多少の通有的相違があるということを暗示するに過ぎないであろう。
 しかし、ともかくも、たとえば、三原山《みはらやま》投身者だけについてでも、もしわかるものならその中で俳句をやっていた人が何プロセントあったか調べてみたいような気がする。俳諧の目を通して自然と人生を見ている人が、容易なことでそんな絶望的気持ちになったり、またそんなに興奮したりしようとは、どうしても自分には思われないからである。
 友人の話であるが、ある俳人で長い病の後に死が迫ったときに聖書と句集とを胸の上において死んで行った人があるそうである。「宗教だけでは、どうもさびしかったらしい」と友人が付け加えて話した。
[#地付き](昭和九年三月、俳句研究)



底本:「日本の名随筆 別巻25 俳句」作品社
   1993(平成5)年3月25日第1刷発行
   1999(平成11)年11月20日第6刷発行
底本の親本:「寺田寅彦全集 第十二巻」岩波書店
   1961(昭和36)年9月7日
入力:門田裕志
校正:浅原庸子
2006年1月23日作成
青空文庫作成ファイル:
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