俳諧瑣談
寺田寅彦
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)志田素楓《しだそふう》氏
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)故坂本|四方太《よもた》氏
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから3字下げ]
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一
ドイツの若い物理学者のLというのがせんだって日本へ遊びに来ていた。数年前にも一度来たことがあるのでだいぶ日本通になっている。浮世絵などもぽつぽつ買い込んで行ったようである。このドイツ人がある日俳句を作ったと言って友だちの日本人に自慢をした。それは
[#ここから3字下げ]
鎌倉に鶴がたくさんおりました
[#ここで字下げ終わり]
というのである。なるほどちゃんと五、七、五の音数律には適合している。いわれを聞いてみると、「昔頼朝時代などには鎌倉へんに鶴がたくさんにいて、それに関連した史実などもあったが今日ではもう鶴などは一羽も見られなくなって、世の中が変わってしまった」という感慨を十七字にしたのだそうである。それを私に伝えた日本の理学者は世にも滑稽なる一笑話として、それを伝えたのである。
なる
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