猫の穴掘り
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)工合《ぐあい》の

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)昔|呉竹《くれたけ》の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](昭和九年一月『大阪朝日新聞』『東京朝日新聞』)
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 猫が庭へ出て用を便じようとしてまず前脚で土を引っかき小さな穴を掘起こして、そこへしゃがんで体の後端部をあてがう。しかしうまく用を便ぜられないと、また少し進んで別のところへ第二の穴を掘って更に第二の試みをする。それでもいけないと更に第三、第四と、結局目的を達するまでこの試みをつづけるのである。工合《ぐあい》の悪いのが自分の体のせいでなくて地面の不適当なせいだと思うらしい。
 どこへ住居を定めあるいは就職しても何となく面白く行かないで、次から次へと転宅あるいは転職する人のうちにはこの猫のようなのもあるいはあるかもしれない。
 永らく坐りつづけていたあとで足がしびれて歩けなくなる。その時、しびれた足の爪先をいくら揉《も》んでもたたいてもなかなか直らない。また、夜中に眼が覚めて
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