る。もうたくさんであると言っても存外すぐにはやめてくれない。誠に迷惑である。丁寧なのになると、流しが終わってもいつまでもそばについていて、最後にタオルまですすいでくれる。監視されながらの入浴はなんとなく気づまりでこれも迷惑である。
友人たちにこの事を話してみるに、自分に同情する人はまだない。ある人は流しがなるべく念入りで按摩も十二分にやらないと不愉快であるという。また一人は旅行中宿屋の風呂《ふろ》の流しで三助からその土地の一般的知識を聞き出すのが最も有効でまた最も興味があるというのである。
そうしてみると、世の中には、多くの人に喜ばれる流しをはなはだしく嫌忌《けんき》する人間もまれにはあるという事実を一つの事実として記録しておく事もむだではないかもしれない。
ついでながら精神的の方面でこの風呂の三助に相当する職業もあるようである。心の垢《あか》を落とすのも、からだの垢を落とすのも、商売となれば似たものではないだろうか。この心の三助に対しても私は取捨の自由を与えらるる事を希望するものである。
調律師
種々な職業のうちでピアノの調律師などは、当人にはとにかく、はたから
前へ
次へ
全41ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
寺田 寅彦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング