フ鎖が世界のどこかに自然と集合すれば簡単である。さすればその焦点に集中した要素をやや確かに把握《はあく》し得らるるから、今度は逆の順序によってこの焦点から発散し拡散した要素の各時代における空間的分布を験する事ができる、その時に至ってはじめて、この編の初めに出した拡散に関する数式がやや具体的の意義を持って現われて来るであろう。もっともそれはできるとしてもはなはだ遠い未来において始めて実現されうる事であろう。
 しかし上に考えた鎖はおそらく一点には集中しないであろう、それがどう食い違うか、そこに最も興味ある将来の問題の神秘の殿堂の扉《とびら》が遠望される。この殿堂への一つの細道、その扉を開くべき一つの鍵《かぎ》の、おぼろげな、しかも拙な言葉で表現された暗示としてのみ、この一編の正当な存在の意義を認容される事ができれば著者としてむしろ望外の幸いである。
 自分はできるだけ根拠なき臆断《おくだん》と推理を無視する空想を避けたつもりである。しかし行文の間に少しでも臆断のにおいがあればそれは不文の結果である。推理の誤謬《ごびゅう》や不備があればそれは不敏のいたすところである。このはなはだ僭越《せん
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