オないであろうと信ずる。しかもそのほう専門の研究者の専門の仕事として見る時は、他の科学者、たとえば天文学者、物理学者、化学者などの仕事に比してそれほどにめんどうな仕事とは決して思われないのである。
もちろん、これも他の科学の場合と全く同様に、初めからそううまくは行かないであろう。そうして、すべての可能なるものへの試みの「不可能」を「証明」し、抹殺《まっさつ》する事にのみ興味をもつ「批評家」の批評を受けなければなるまい。しかしあらゆる「精密科学」はその根底において、ちょうどかくのごとき方法を取って進んで来たものである。すべてがそのはじめは不精密なる経験の試験的整理を幾重となく折り返し繰り返し重ねて、漸進的に進んで来たものである。その昔、独断と畏怖《いふ》とが対峙《たいじ》していた間は今日の「科学」は存在しなかった。「自然」を実験室内に捕えきたってあらゆる稚拙な「試み」を「実験」の試練にかけて篩《ふる》い分けるという事、その判断の標準に「数値」を用いるという事によって、はじめて今日の科学が曙光《しょこう》を現わしたと思われる。もし古来の科学者が、「試み」なしの臆断《おくだん》を続けたり、
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