ったこともある。
十年ほど前に少しばかりロシア語の初歩を学んだ事もあった。それがために「言語の不思議」に対する自分の好奇心と疑問とは、むしろ急に大きな高い階段を一つ駆け上がったような気がした。そして、一方で新しい不思議が多量に加わると同時に、他方ではこの新しい不思議が、かえって古い不思議のなぞを解くかぎとなりうる可能性を暗示するようにも見えた。それは単に語彙《ごい》中のあるもののみならず、その文法や措辞法に、東西を結びつける連鎖のようなものを認める、と思ったからである。
最近に至って「言語」に対する自分の好奇心を急激な加速度で増長せしめるに至った経路はあるいは一部の読者に興味があるかもしれないし、また自分が本分を忘れて、他人の門戸をうかがうような不倫をあえてするに至った事の申し訳にもいくぶんはなるかもしれないから一つの懺悔話《ざんげばなし》としてここにしるしてみよう。
地球物理学上の近年の問題となっている陸塊の水平移動に関する学説、俗に大陸漂移論と称するものから見た日本陸地の成立、変化、ならびにこれに連関して問題となるべき陸地の昇降、地震、火山現象等を追究するに当たって、しばしば
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