だんだんにこの調子であさって行くと、おしまいにはギリシア、ラテンはもちろん現在行なわれている西欧諸国の語にもやはり同程度の類似が認められる。またかけ離れたアフリカへんやアイスランドまでも網の目を広げられる事になってしまうのである。
具体的の例はこの序論においては省略するつもりであるが、ただ自分の意味を明らかにするために、試みに若干の例をあげると、たとえば、最も縁の遠そうな英語ですらも、しいてこじつけようと思えばかなりにこじつけられない事はない。すなわち
[#ここから表組]
beat butu
laugh walahu
flat filattai
hollow hola
new nii
fat futo
easy yasasi
clean kilei
ill walui
rough araki
hard katai
angry ikari
anchor ikari
tray tarai
soot susu
mattress musiro
etc. etc.
[#ここで表組終わり]
この程度のもの、またもっと駄洒落《だじゃれ》らしいものなら、まだいくらでもありそうである。これらでも、歴史も何も考えずに、子音|転訛《てんか》や同化や、字位転換や、最終子音消失やでなんとかかとか理屈をつければつくであろうし、また中には実際に因果の連鎖のあるものもあるであろう。
もっと思い切って、たとえばアフリカへ飛んで Chikaranga の語彙《ごい》を当たると、ちょっと当たっただけで
[#ここから表組]
象 zhou
魚 hove[#「v」は下線(_)付き、181−表組2行目]
鳥 shiri
咽喉 huro
[#ここで表組終わり]
などが見つかる。「象」の訓キサと似たのにはマライの gajah(サンスクリットからとある)があるが、ゾウといったようなのはずいぶん捜したがなかなか見当たりにくくて、それが、どうであろう、突然こんな意外な所に現われたのである。「魚」も同様であった。「鳥」はむしろアイヌの chiri に近いから妙である。土佐《とさ》で咽喉《のど》を切って自殺する事を「フロヲハネル」と言うが、この「フロ」が偶然出て来たのはずいぶん人を笑わせる。もっとも万一ことによると、これはアラビアの halq その他同系の語を通じて結局は西欧の gorge, throat, Hals などにもつながり、ま
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