とえそれがみんなおとなしい紳士ばかりであっても、乗り込みに要する時間は人数と共に増す。もし下車する人を待たずに無理に押し入ろうとしたり、あるいは車掌と争ったりするようだとさらに停車時間は延長される。このようにして停留時間の延長した結果はどうであるか。
 これは、言うまでもなくこの乙電車が次の停留所に着すべき時間を遅らせる。従って次の停留所でその遅刻のためによけいに収容しなければならない前述の nb の数を増加させる。その結果はさらに循環的に、その次の停留所に着く時刻を遅らせる、and so on で、この乙電車の混雑はだんだんに増すばかりである。最も簡単な理想的の場合だと、停車回数に等しい[#「停車回数に等しい」に傍点]羃数《べきすう》で収容人数が増加するわけである。実際には車の容量に制限されるから、そう無制限には増さないだろうが、ともかくも、「込んだ車はますます込むような傾向をもつ」という結論にはたいした誤謬《ごびゅう》はないはずである。
 こののろわれた乙電車の次に来る丙電車はどうであるか、この丙電車が第一の停留所に来る時刻が規定の時間どおりであったとすると、前の乙電車がb時間遅れ
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