電車の混雑について
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)亀裂《ひび》の入った肉体と

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)時々|最寄《もよ》りの停留所に立って

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#「出発点からの距離が大きくなるほど大きくなる」に傍点]
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 満員電車のつり皮にすがって、押され突かれ、もまれ、踏まれるのは、多少でも亀裂《ひび》の入った肉体と、そのために薄弱になっている神経との所有者にとっては、ほとんど堪え難い苛責《かしゃく》である。その影響は単にその場限りでなくて、下車した後の数時間後までも継続する。それで近年難儀な慢性の病気にかかって以来、私は満員電車には乗らない事に、すいた電車にばかり乗る事に決めて、それを実行している。
 必ずすいた電車に乗るために採るべき方法はきわめて平凡で簡単である。それはすいた電車の来るまで、気長く待つという方法である。
 電車の最も混雑する時間は線路と方向によってだいたい一定しているようである。このような特別な時間だと、いくら待ってもなかなかすいた電車はなさ
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