れない。あるいはまたいわゆる現代思想と称せらるる漠然《ばくぜん》としたもののなんらかの具象的発現であるかもしれない。これについては軽卒な批判を避けなければならない。
 しかしここで私の考えてみたいと思う事は、そういう大多数の行為の是非の問題ではなくて、そういう一般乗客の傾向から必然の結果として起こる電車混雑の律動に関する科学的あるいは数理的の問題である。
 問題を簡単にするために、次のような場合を考えてみる。すなわち、ある終点からある一定時間ごとに発車する電車が、皆一様な速度で進行し、また途中の停留所でも一定時間だけ停車するように規定されたとする。もしこの規定が完全に実行されれば、その線路の上の任意の一点を電車が相次いで通過する時間間隔は、やはりどれも同一でなければならない。しかるに実際上は、避くべからざる雑多の複雑な偶然的原因のために、この一定であるべき間隔に少しずつの異同を生じ、理想的にはたとえばTであるべき間隔が T+ΔT[#「ΔT」は縦中横] となる。この ΔT[#「ΔT」は縦中横] は正負大小種々であって、いわゆるガウスの誤差方則、または類似の方則によって分布されるものであろ
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